キリンジ通算14枚目、堀込泰行が脱退してからの新たな体制のKIRINJIとしては4枚目のアルバム【cherish】
ダンスミュージックやヒップホップに焦点が当てられており、都会の喧騒と紛れる一人を歌う【『あの娘は誰?』とか言わせたい】堀込高樹のひねくれ節が炸裂する【善人の反省】鎮座DOPENESSとのコラボ【Almond eyes】などなどの全9曲。現代の音楽作りに合わせながらもキリンジらしさあふれる深みある歌詞や尖りも無くさない名盤だ。
そんなcherishだが1つだけとても浮いている曲がある。何をするわけでもなく、ただただピザかハンバーガーのどちらを食べるかを迷っているだけの曲【Pizza vs Hamburger】だ。
ただどちらを食べるか迷うだけ。肝心の迷っている理由が曲から解ることはない。そもそも理由すらないのかもしれない。そんな名曲を少しだけ真面目に考察しようと思う。
ーなぜ曲中の人物は決め損ねているのか
そもそも曲中の人物こと“俺”はなぜどちらを食べるか決め損ねているのだろうか?
ランチタイムだから?単にお腹が空いてるだけ?それともただの気まぐれか。明確な回答は歌詞にはない。しかし少しだけ場面を想像できる歌詞がある
ピザ屋にハンバーガーを求めないでよ
それよりあなたも一切れ冷める前にどうぞ
名前もわからぬ誰かから「一切れどうぞ」と提案され、揺さぶられているのがわかる。この歌詞により《ピザもハンバーガーも好きな“俺”はどちらを食べるか迷っているが「一切れどうぞ」と言われた》
誰かに提案されて揺さぶられている図が出来上がる。これが迷っている理由であろう。
しかし一体誰にそう言われたのだろうか?普通に考えるなら他の第三者である。でももしかしたら“脳内にいるピザ派の俺”かもしれない。謎は深まるばかりである。
ちなみにこの時の提案により“俺”は
俺ピザかな ピザだな
とあるようにハンバーガーよりもピザに気持ちが傾きかけているようだ。
ーなぜそこまで迷うのか
誰かに揺さぶられて、傾きかけてもなお悩むことは尽きない“俺”。いったい何が彼をそこまで悩ませるのだろうか?これにも特に深い意味などないかもしれないが、単に好きなだけでここまで悩むだろうか?
別のアルバムである【愛をあるだけ、すべて】の収録曲【時間がない】の歌い出しにはこんなフレーズがある。
あと何回 君と会えるか
あと何曲 曲作れるかあと何回 食事できるか
今日が最後かもしれないんだ
この【時間がない】は 残された時間を思って、大切な人に愛を伝えようと決める男をテーマに歌った曲である。だが前述の歌詞のとおり、「いつ人生が終わるかわからないんだ」というある種の不安も描かれている。
「世界の終わりが来た時、最後に食べたいものは何?」のような心理テストや質問形式を見たりやったりしたことがあるだろう。
冗談だからこそできる問答ではあるが、それを敢えて冗談と受け取らず本当に世界の終焉が訪れたとして、最後に何を食べたいかをこの記事を読んでいる画面の前の読者もほんの少しでもいいので真面目に考えていただきたい。少なくとも筆者は相当迷う。
“俺”ももしかしたら世界の終わり、もしくはそれと同等の死活問題に直面し、最後の晩餐を決めている。
「自分の人生の終わりを突きつけられた。ならそんな最期に何を食おうか」あるいは、「いつ終わるかわからない人生。その最後には絶対後悔を付けたくないが、どちらが1番後悔はないか……」そんな一心で迷っているのかもしれない。いずれであっても、人生に悔いが残らないようにするためなら納得の迷い様である。
深読みになってしまうが、この曲も【時間がない】で描かれた要素の一つ「人生といういつ終わるかもわからない漠然とした不安」に対する気持ちが込められているのかもしれない。
ー 結末
ここまで迷った末、“俺”はどちらを選んだのか。しっかりと結果が出ている
ハンバーガーかピザか選べないよ
だったらハンバーガーもピザも
食いたいだけ食おう
なんとどっちも……かなり豪勢である。
ここまで迷った末どっちという選択。ならばグズグズ悩んでないで最初からそうしろとツッコみたくなるが、究極の2択の最善の一手である。どちらも取れるならどっちも取ったほうが幸せなのは確実。“俺”は絶対後悔しない選択を選べたのだ。
ー考察の意味
このPizza vs Hamburgerについて、とある記事でメインボーカル兼作詞作曲の堀込高樹はこう語っている。
単純にノリの良い曲じゃないですか。リフとかグルーヴで聴かせる曲だから、そこに観念的なことを乗せても面白くないんですよね。
だから、意味が分かるように言葉の切れの良さを優先して作りました。
*1
なにも最初から深い意味などなかったのだ。この記事冒頭の《そもそも理由なんてないのかもしれない》という一文こそが正解であった。
今まで書き連ねてきた歌詞に込められた意味や、人生の不安だの究極の選択だのは無意味なものあった。たしかにノリが良い曲に深い意味を練り込んでは盛り下がる人もいるだろう。頭を空にして楽しむことに深い考えなど必要ないのかもしれない。
しかし、全くをもって無意味だったかと言えばそうではないだろう。意味無きことから何かを見出す…。《無から有を生み出せる》のは人間の長所でもある。「考えた」その行動は己の人生に新たな視点を生み出しただろう。
ただ前述の通り【Pizza vs Hamburger】に観念的なものはないので、どう御託を並べようがこの考察は「意味などない」という言葉一つで終わってしまうのだが。
ー最後に
この記事を読んで、もしキリンジに興味を持ってもらえたらとても嬉しく思う。
この記事の主題であるPizza vs Hamburgerが収録されたアルバム【cherish】のリンクを貼っておきます。リンク他、各種サブスク等でも聞けます。
記事冒頭で紹介したとおり名曲揃いなのでぜひ。
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*1:DI:GA ONLINE KIRINJI堀込高樹、ニューアルバム「cherish」は“今の音楽として聴けるもの、かつ、ハーモニーやメロディも意識”全国ツアーも開催!https://www.diskgarage.com/digaonline/interview/133422 より一部抜粋